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医学部 病理学第一講座 |
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プロフィール |
1. ストレス応答とは 原核生物から真核生物にいたるまで、すべての生物は外界から受ける環境ストレスや感染ストレスに対する防御機構と適応機構を持っており、それらはストレス応答と呼ばれています。ヒトも生理機能の一部としてストレス応答を持っていますが、その機能障害はがん、神経変性疾患、免疫疾患、動脈硬化・代謝疾患、精神疾患などのさまざまな病気やエイジング(老化)と関連しています。また、ストレス応答を制御することによって、病気を治療したり、予防したりすることもできることがわかってきました。 2. ストレス応答の分子機構 ストレス応答はセンサー分子とエフェクター分子から構成され、すべての細胞が備えています。たとえば、温熱ストレスのセンサー分子はHeat shock factor (HSF)と呼ばれる遺伝子転写調節因子で、これが活性化するとエフェクター分子である熱ショックタンパク質(Heat shock protein, HSP)の発現を促進します。HSPの機能は分子シャペロンと呼ばれ、細胞内タンパク質の高次構造や分解を制御しています。そのほかに、センサー分子として酸化ストレスセンサーNrf2, Foxo3a、低酸素ストレスセンサーHIF-1、小胞体ストレスセンサーPERK, ATF6, IRE1など、エフェクター分子として酸化還元反応を制御するOxidoreductase, 細胞膜輸送タンパク質ABC Transporter、細胞死抑制分子IAP familyなど、ストレス応答を支えている多くの分子が知られています。 3. ストレス応答とがん がん細胞は正常細胞と比較して高いストレス耐性を持っていることが知られ、がんの悪性形質の1つとなっています。私たちは、がんの女王バチに相当するがん幹細胞(Cancer stem cell)が恒常的に高レベルのストレス応答分子群を発現しており、より高度のストレス耐性を獲得していることを見出しています。また、がん細胞にストレス刺激を加えてストレス応答を惹起すると、働きバチが女王バチに変身する現象も見出しており、これらの分子機構を解明することによって、近い将来、女王バチを撲滅する治療法や再発予防法につながるものと期待しています。実際、ストレス応答分子の発現を抑制するとがん幹細胞の造腫瘍性が失われることから、ストレス応答分子を標的とした分子標的治療も開発中です。 4. ストレス応答と神経変性疾患 脊髄小脳変性症やアルツハイマー病のような難治性神経変性疾患の原因として、神経毒性をもつ変性タンパク質の蓄積がわかっています。たとえば、アルツハイマー病におけるAmyloid betaタンパク質の蓄積、脊髄小脳変性症におけるポリグルタミンタンパク質の蓄積、クロイツフェルトヤコブ病におけるプリオンタンパク質の蓄積などがあります。これら病原タンパク質の蓄積は神経細胞のストレス応答の減弱とタンパク質高次構造の変化、すなわちタンパク質の変性が原因にあることがわかりつつあり、分子シャペロンHSPによる神経変性疾患の治療と予防が期待されています。脳神経細胞のストレス応答を高めることができれば、認知症の予防にも効果があると期待されます。 5. ストレス応答と生体防御 細胞がウイルスや細菌に感染すると、ストレス応答が惹起されます。ストレス応答によって発現が亢進したHSPの一部は細胞外へ放出され、樹状細胞のような免疫司令塔に働きかけ、自然免疫(単球・NK細胞の活性化、インターフェロン産生)と獲得免疫(Tリンパ球・Bリンパ球の活性化、抗体産生)を発動します。このように、細胞のストレス応答は生体防御機構のセンサーおよびエフェクターとしても機能しています。変温動物は感染すると気温・水温の高い場所へ移動します。また、ヒトを含めて恒温動物は感染によって発熱しますが、これらは温熱ストレス応答によって生体防御機構を活性化する反応と考えられます。NHK ”ためしてガッテン” (2011年5月放送)において紹介しましたが、ヒトのリンパ球を39℃に加温すると、標的細胞を細胞障害する活性が高まります。感染だけでなく、痛風のような非感染性炎症(無菌性炎症)においても、細胞のストレス応答がDanger signalのセンサーおよびエフェクターとして働いています。これらの分子機構を免疫治療に応用することで、より効果的ながんワクチンを実用化する研究も行っています。 6. ストレス応答とアンチエイジング 過度なストレスがヒトのエイジング(老化)を促進することはよく知られていますが、エイジングの病態生理として細胞および生体のストレス応答の低下が挙げられます。ストレスタンパク質の発現低下は変性タンパク質の増加をもたらし、生体防御反応を低下させ、細胞死を増加させます。最近では脳神経細胞のストレス応答の低下が抑うつ状態のような精神機能とも関係しているらしいことがわかりつつあります。宇宙環境においてヒトの加齢現象が促進することが知られていますが、これも環境ストレスの増大と細胞ストレス応答の減弱が原因であると考えられます。したがって、ストレス応答を高めることができれば、認知症や動脈硬化などの多くの老化関連疾患から予防できる可能性があります。 ストレス病理学を起点として、ヒトの疾患制御と予防医学へ橋渡しし、世界中の人々が健康で明るく生き生きと生活できる社会に貢献することが私の夢です。 |
鳥越 俊彦 (トリゴエ トシヒコ)
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経歴 【 表示 / 非表示 】
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1984年03月-1997年11月
防衛庁 航空自衛隊 航空医官
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2015年10月-継続中
札幌医科大学 大学院医学研究科 教授
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2015年10月-継続中
札幌医科大学 医学部 医学科学科目(基礎医学部門) 教授
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2004年10月-2015年10月
札幌医科大学 大学院医学研究科 准教授
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1997年11月-2015年10月
札幌医科大学 医学部 医学科学科目(基礎医学部門) 助教、講師、准教授
所属学協会 【 表示 / 非表示 】
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日本宇宙生物学会
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Cell Stress Society International
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日本病理学会 理事
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日本癌学会
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日本免疫学会 評議員
研究分野 【 表示 / 非表示 】
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ライフサイエンス 腫瘍生物学 がん幹細胞
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ライフサイエンス 腫瘍診断、治療学 免疫療法 ワクチン T細胞療法
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ライフサイエンス 細胞生物学 細胞ストレス応答 ストレスタンパク質 熱ショックタンパク質
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ライフサイエンス 実験病理学 がん幹細胞
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ライフサイエンス 人体病理学 免疫病理学
研究キーワード 【 表示 / 非表示 】
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がん免疫 免疫療法 ワクチン T細胞療法
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自己免疫 自己抗体 炎症
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細胞ストレス応答 熱ショックタンパク質 分子シャペロン
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がん幹細胞 癌遺伝子 癌抑制遺伝子
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免疫病理学 人体病理学
論文 【 表示 / 非表示 】
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Establishment of potent TCR-T cells specific for cisplatin-resistance related tumor-associated antigen, CLSPN using codon-optimization.
Kanta Hori, Shuhei Yamada, Kenji Murata, Haruka Miyata, Yuka Mizue, Aiko Murai, Tomoyuki Minowa, Kenta Sasaki, Naoki Shijubou, Terufumi Kubo, Rena Morita, Serina Tokita, Takayuki Kanaseki, Tomohide Tsukahara, Takashige Abe, Nobuo Shinohara, Yoshihiko Hirohashi, Toshihiko Torigoe
Human vaccines & immunotherapeutics 20 ( 1 ) 2414542 - 2414542 2024年12月 [国際誌]
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Single-cell profiling of acral melanoma infiltrating lymphocytes reveals a suppressive tumor microenvironment.
Tomoyuki Minowa, Kenji Murata, Yuka Mizue, Aiko Murai, Munehide Nakatsugawa, Kenta Sasaki, Serina Tokita, Terufumi Kubo, Takayuki Kanaseki, Tomohide Tsukahara, Toshiya Handa, Sayuri Sato, Kohei Horimoto, Junji Kato, Tokimasa Hida, Yoshihiko Hirohashi, Hisashi Uhara, Toshihiko Torigoe
Science translational medicine 16 ( 776 ) eadk8832 2024年12月 [国際誌]
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Neoantigen prioritization based on antigen processing and presentation
Serina Tokita, Takayuki Kanaseki, Toshihiko Torigoe
Frontiers in Immunology ( Frontiers Media SA ) 15 2024年11月
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Identification of immunogenic HLA class I and II neoantigens using surrogate immunopeptidomes.
Serina Tokita, Minami Fusagawa, Satoru Matsumoto, Tasuku Mariya, Mina Umemoto, Yoshihiko Hirohashi, Fumitake Hata, Tsuyoshi Saito, Takayuki Kanaseki, Toshihiko Torigoe
Science advances 10 ( 38 ) eado6491 2024年09月 [国際誌]
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Satoru Matsumoto, Takahiro Tsujikawa, Serina Tokita, Mai Mohamed Bedeir, Kazuhiko Matsuo, Fumitake Hata, Yoshihiko Hirohashi, Takayuki Kanaseki, Toshihiko Torigoe
OncoImmunology ( Informa UK Limited ) 13 ( 1 ) 2024年09月
Misc 【 表示 / 非表示 】
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SARS-CoV-2スパイク蛋白に対するヘルパーT細胞活性化ペプチドの同定と評価
小林博也, 矢島優己, 小坂朱, 長門利純, 廣橋良彦, 鳥越俊彦, 大栗敬幸
日本病理学会会誌 112 ( 1 ) 2023年
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プラチナ製剤耐性がん細胞を標的とする抗HLA-A2/Claspinペプチド特異的人工抗体の開発
水江由佳, 廣橋良彦, 塚原智英, 金関貴幸, 久保輝文, 村田憲治, 鳥越俊彦
日本病理学会会誌 112 ( 1 ) 2023年
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Claspinはシスプラチン抵抗性膀胱癌細胞株に対する免疫療法の有効なターゲット候補である
山田修平, 山田修平, 廣橋良彦, 宮田遥, 宮田遥, 柳川純子, 村井愛子, 時田芹奈, 金関貴幸, 菊地央, 松本隆児, 大澤崇宏, 安部崇重, 鳥越俊彦, 篠原信雄
日本泌尿器科学会総会(Web) 110th 2023年
産業財産権 【 表示 / 非表示 】
受賞 【 表示 / 非表示 】
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北海道科学技術賞
2023年02月 北海道 腫瘍免疫病理学研究によるがんワクチン療法の開発
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秋山財団賞
2022年09月 秋山記念生命科学振興財団 ヒトがん免疫応答のメカニズム解明とがん免疫療法への応用研究
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研究助成
2014年 小野がん研究財団
受賞者: 鳥越 俊彦 -
研究開発助成
2014年 ノーステック財団
受賞者: 鳥越 俊彦 -
学術研究賞
2007年10月 日本病理学会
受賞者: 鳥越 俊彦
共同研究・競争的資金等の研究課題 【 表示 / 非表示 】
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深層学習を用いた婦人科細胞診断支援装置の実装へ向けた研究
基盤研究(C)
研究期間:
2023年04月-2026年03月新開 翔太, 鳥越 俊彦, 真里谷 奨, 藤野 雄一, 斉藤 豪
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pHLAマルチマーライブラリーを用いたT細胞標的抗原分子の網羅的解析
挑戦的研究(開拓)
研究期間:
2021年07月-2025年03月鳥越 俊彦, 久保 輝文
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乳癌の転移巣を伴うリンパ節内のT-cellにおける免疫応答
基盤研究(C)
研究期間:
2020年04月-2023年03月島 宏彰, 竹政 伊知朗, 九冨 五郎, 里見 蕗乃, 和田 朝香, 鳥越 俊彦, 廣橋 良彦
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トリプルネガティブ乳癌におけるERO1-Lαをターゲットにした複合免疫療法の開発
基盤研究(C)
研究期間:
2020年04月-2023年03月九冨 五郎, 島 宏彰, 和田 朝香, 鳥越 俊彦, 廣橋 良彦, 竹政 伊知朗