鳥越 俊彦 (トリゴエ トシヒコ)

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所属

医学部 病理学第一講座

職名

教授

ホームページ

http://web.sapmed.ac.jp/patho1/research/report02.html

プロフィール

1. ストレス応答とは
原核生物から真核生物にいたるまで、すべての生物は外界から受ける環境ストレスや感染ストレスに対する防御機構と適応機構を持っており、それらはストレス応答と呼ばれています。ヒトも生理機能の一部としてストレス応答を持っていますが、その機能障害はがん、神経変性疾患、免疫疾患、動脈硬化・代謝疾患、精神疾患などのさまざまな病気やエイジング(老化)と関連しています。また、ストレス応答を制御することによって、病気を治療したり、予防したりすることもできることがわかってきました。

2. ストレス応答の分子機構
ストレス応答はセンサー分子とエフェクター分子から構成され、すべての細胞が備えています。たとえば、温熱ストレスのセンサー分子はHeat shock factor (HSF)と呼ばれる遺伝子転写調節因子で、これが活性化するとエフェクター分子である熱ショックタンパク質(Heat shock protein, HSP)の発現を促進します。HSPの機能は分子シャペロンと呼ばれ、細胞内タンパク質の高次構造や分解を制御しています。そのほかに、センサー分子として酸化ストレスセンサーNrf2, Foxo3a、低酸素ストレスセンサーHIF-1、小胞体ストレスセンサーPERK, ATF6, IRE1など、エフェクター分子として酸化還元反応を制御するOxidoreductase, 細胞膜輸送タンパク質ABC Transporter、細胞死抑制分子IAP familyなど、ストレス応答を支えている多くの分子が知られています。

3. ストレス応答とがん
がん細胞は正常細胞と比較して高いストレス耐性を持っていることが知られ、がんの悪性形質の1つとなっています。私たちは、がんの女王バチに相当するがん幹細胞(Cancer stem cell)が恒常的に高レベルのストレス応答分子群を発現しており、より高度のストレス耐性を獲得していることを見出しています。また、がん細胞にストレス刺激を加えてストレス応答を惹起すると、働きバチが女王バチに変身する現象も見出しており、これらの分子機構を解明することによって、近い将来、女王バチを撲滅する治療法や再発予防法につながるものと期待しています。実際、ストレス応答分子の発現を抑制するとがん幹細胞の造腫瘍性が失われることから、ストレス応答分子を標的とした分子標的治療も開発中です。

4. ストレス応答と神経変性疾患
脊髄小脳変性症やアルツハイマー病のような難治性神経変性疾患の原因として、神経毒性をもつ変性タンパク質の蓄積がわかっています。たとえば、アルツハイマー病におけるAmyloid betaタンパク質の蓄積、脊髄小脳変性症におけるポリグルタミンタンパク質の蓄積、クロイツフェルトヤコブ病におけるプリオンタンパク質の蓄積などがあります。これら病原タンパク質の蓄積は神経細胞のストレス応答の減弱とタンパク質高次構造の変化、すなわちタンパク質の変性が原因にあることがわかりつつあり、分子シャペロンHSPによる神経変性疾患の治療と予防が期待されています。脳神経細胞のストレス応答を高めることができれば、認知症の予防にも効果があると期待されます。

5. ストレス応答と生体防御
細胞がウイルスや細菌に感染すると、ストレス応答が惹起されます。ストレス応答によって発現が亢進したHSPの一部は細胞外へ放出され、樹状細胞のような免疫司令塔に働きかけ、自然免疫(単球・NK細胞の活性化、インターフェロン産生)と獲得免疫(Tリンパ球・Bリンパ球の活性化、抗体産生)を発動します。このように、細胞のストレス応答は生体防御機構のセンサーおよびエフェクターとしても機能しています。変温動物は感染すると気温・水温の高い場所へ移動します。また、ヒトを含めて恒温動物は感染によって発熱しますが、これらは温熱ストレス応答によって生体防御機構を活性化する反応と考えられます。NHK ”ためしてガッテン” (2011年5月放送)において紹介しましたが、ヒトのリンパ球を39℃に加温すると、標的細胞を細胞障害する活性が高まります。感染だけでなく、痛風のような非感染性炎症(無菌性炎症)においても、細胞のストレス応答がDanger signalのセンサーおよびエフェクターとして働いています。これらの分子機構を免疫治療に応用することで、より効果的ながんワクチンを実用化する研究も行っています。

6. ストレス応答とアンチエイジング
過度なストレスがヒトのエイジング(老化)を促進することはよく知られていますが、エイジングの病態生理として細胞および生体のストレス応答の低下が挙げられます。ストレスタンパク質の発現低下は変性タンパク質の増加をもたらし、生体防御反応を低下させ、細胞死を増加させます。最近では脳神経細胞のストレス応答の低下が抑うつ状態のような精神機能とも関係しているらしいことがわかりつつあります。宇宙環境においてヒトの加齢現象が促進することが知られていますが、これも環境ストレスの増大と細胞ストレス応答の減弱が原因であると考えられます。したがって、ストレス応答を高めることができれば、認知症や動脈硬化などの多くの老化関連疾患から予防できる可能性があります。
ストレス病理学を起点として、ヒトの疾患制御と予防医学へ橋渡しし、世界中の人々が健康で明るく生き生きと生活できる社会に貢献することが私の夢です。

学歴 【 表示 / 非表示

  • 1978年
    -
    1984年

    防衛省 防衛医科大学校   医学科  

学位 【 表示 / 非表示

  • 札幌医科大学   博士(医学)

経歴 【 表示 / 非表示

  • 1984年03月
    -
    1997年11月

    防衛庁 航空自衛隊   航空医官

  • 2015年10月
    -
    継続中

    札幌医科大学   大学院医学研究科   教授

  • 2015年10月
    -
    継続中

    札幌医科大学   医学部 医学科学科目(基礎医学部門)   教授

  • 2004年10月
    -
    2015年10月

    札幌医科大学   大学院医学研究科   准教授

  • 1997年11月
    -
    2015年10月

    札幌医科大学   医学部 医学科学科目(基礎医学部門)   助教、講師、准教授

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所属学協会 【 表示 / 非表示

  •  
     
     

    日本宇宙生物学会

  •  
     
     

    日本病理学会 理事

  •  
     
     

    日本癌学会

  •  
     
     

    日本免疫学会 評議員

  •  
     
     

    日本がん免疫学会

研究分野 【 表示 / 非表示

  • ライフサイエンス   腫瘍生物学   がん幹細胞

  • ライフサイエンス   腫瘍診断、治療学   免疫療法 ワクチン T細胞療法

  • ライフサイエンス   細胞生物学   細胞ストレス応答 ストレスタンパク質 熱ショックタンパク質

  • ライフサイエンス   実験病理学   がん幹細胞

  • ライフサイエンス   人体病理学   免疫病理学

researchmapの所属 【 表示 / 非表示

  • 札幌医科大学   大学院医学研究科   教授  

 

研究キーワード 【 表示 / 非表示

  • がん免疫 免疫療法 ワクチン T細胞療法

  • 自己免疫 自己抗体 炎症

  • 細胞ストレス応答 熱ショックタンパク質 分子シャペロン

  • がん幹細胞 癌遺伝子 癌抑制遺伝子

  • 免疫病理学 人体病理学

論文 【 表示 / 非表示

  • 【AIがもたらす婦人科癌医療の新展開】深層学習を利用したHE染色からの子宮内膜癌MMR status判定の可否に関する検討

    梅本 美菜, 真里谷 奨, 永田 舞, 堀米 俊弘, 新開 翔太, 杉田 真太朗, 金関 貴幸, 松浦 基樹, 岩崎 雅宏, 廣橋 良彦, 長谷川 匡, 藤野 雄一, 鳥越 俊彦, 齋藤 豪

    日本婦人科腫瘍学会学術講演会プログラム・抄録集 ( (公社)日本婦人科腫瘍学会 )  65回   153 - 153  2023年07月

  • 深層学習によるHE染色データを用いた子宮内膜癌プロファイル判定の適否に関する検討

    梅本 美菜, 真里谷 奨, 永田 舞, 堀米 俊弘, 新開 翔太, 杉田 真太朗, 金関 貴幸, 松浦 基樹, 岩崎 雅宏, 廣橋 良彦, 長谷川 匡, 鳥越 俊彦, 齋藤 豪, 藤野 雄一

    日本医療情報学会春季学術大会プログラム・抄録集 ( (一社)日本医療情報学会 )  27回   122 - 123  2023年06月

  • 深層学習によるHE染色データを用いた子宮内膜癌プロファイル判定の適否に関する検討

    梅本 美菜, 真里谷 奨, 永田 舞, 堀米 俊弘, 新開 翔太, 杉田 真太朗, 金関 貴幸, 松浦 基樹, 岩崎 雅宏, 廣橋 良彦, 長谷川 匡, 鳥越 俊彦, 齋藤 豪, 藤野 雄一

    日本医療情報学会春季学術大会プログラム・抄録集 ( (一社)日本医療情報学会 )  27回   122 - 123  2023年06月

  • 細胞診におけるAIの活用 子宮頸部細胞診におけるAIの活用

    新開 翔太, 真里谷 奨, 梅本 美菜, 南部 優太, 永田 舞, 淺沼 広子, 上野 太郎, 廣橋 良彦, 鳥越 俊彦, 佐藤 生馬, 藤野 雄一, 齋藤 豪

    日本臨床細胞学会雑誌 ( (公社)日本臨床細胞学会 )  61 ( Suppl.2 ) 447 - 447  2022年10月

  • 転移性腎癌患者におけるニボルマブ単剤の治療効果予測に対する免疫染色スコアリングの有用性

    若宮崇人, 久保輝文, 山下真平, 柑本康夫, 鳥越俊彦, 原勲

    泌尿器科紀要   68 ( 10 ) 311 - 315  2022年10月  [国内誌]

    DOI PubMed J-GLOBAL

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Misc 【 表示 / 非表示

  • 新技術NAP-selectionによる免疫原性ネオアンチゲンの効率的な検出

    時田芹奈, 時田芹奈, 金関貴幸, 金関貴幸, 鳥越俊彦, 鳥越俊彦

    日本病理学会会誌   112 ( 1 )  2023年

    J-GLOBAL

  • 肺がんtapasin欠損による免疫チェックポイント阻害薬効果の改善

    茂庭慶悟, 茂庭慶悟, 時田芹奈, 金関貴幸, 鳥越俊彦

    日本病理学会会誌   112 ( 1 )  2023年

    J-GLOBAL

  • 形態から読み解く腫瘍免疫微小環境

    廣橋良彦, 久保輝文, 金関貴幸, 塚原智英, 鳥越俊彦

    日本病理学会会誌   112 ( 1 )  2023年

    J-GLOBAL

  • 末端黒子型黒色腫における腫瘍浸潤リンパ球の単細胞免疫プロファイリング

    箕輪智幸, 箕輪智幸, 村田憲治, 廣橋良彦, 宇原久, 鳥越俊彦

    日本病理学会会誌   112 ( 1 )  2023年

    J-GLOBAL

  • 免疫チェックポイント阻害薬・化学療法併用を初回治療で施行した進展型小細胞肺癌のサブタイプ別の検討

    四十坊直貴, 四十坊直貴, 久保輝文, 佐々木健太, 廣橋良彦, 鳥越俊彦

    日本病理学会会誌   112 ( 1 )  2023年

    J-GLOBAL

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産業財産権 【 表示 / 非表示

  • T細胞レセプターとその利用

    鳥越 俊彦, 塚原 智英, 廣橋 良彦, 田路 真悟, 中野 一絵, 齊藤 尚吾

    特許権

    J-GLOBAL

  • 腫瘍抗原ペプチド

    特許第6960179号

    佐藤 昇志, 鳥越 俊彦, 廣橋 良彦, 金関 貴幸, コーチン ビタリー, 高谷 あかり, 後藤 正志

    特許権

    J-GLOBAL

  • 腫瘍抗原ペプチド

    佐藤 昇志, 鳥越 俊彦, 廣橋 良彦, 金関 貴幸, コーチン ビタリー, 高谷 あかり, 後藤 正志

    特許権

    J-GLOBAL

  • 腫瘍抗原ペプチド

    特許第6960179号

    佐藤 昇志, 鳥越 俊彦, 廣橋 良彦, 金関 貴幸, コーチン ビタリー, 高谷 あかり, 後藤 正志

    特許権

    J-GLOBAL

  • がん幹細胞特異的抗体

    塚原 智英, 鳥越 俊彦

    特許権

    J-GLOBAL

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受賞 【 表示 / 非表示

  • 北海道科学技術賞

    2023年02月   北海道   腫瘍免疫病理学研究によるがんワクチン療法の開発  

  • 秋山財団賞

    2022年09月   秋山記念生命科学振興財団   ヒトがん免疫応答のメカニズム解明とがん免疫療法への応用研究  

  • 研究助成

    2014年   小野がん研究財団  

    受賞者: 鳥越 俊彦

  • 研究開発助成

    2014年   ノーステック財団  

    受賞者: 鳥越 俊彦

  • 学術研究賞

    2007年10月   日本病理学会  

    受賞者: 鳥越 俊彦

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共同研究・競争的資金等の研究課題 【 表示 / 非表示

  • 深層学習を用いた婦人科細胞診断支援装置の実装へ向けた研究

    基盤研究(C)

    研究期間:

    2023年04月
    -
    2026年03月
     

    新開 翔太, 鳥越 俊彦, 真里谷 奨, 藤野 雄一, 斉藤 豪

  • pHLAマルチマーライブラリーを用いたT細胞標的抗原分子の網羅的解析

    挑戦的研究(開拓)

    研究期間:

    2021年07月
    -
    2025年03月
     

    鳥越 俊彦, 久保 輝文

  • 乳癌の転移巣を伴うリンパ節内のT-cellにおける免疫応答

    基盤研究(C)

    研究期間:

    2020年04月
    -
    2023年03月
     

    島 宏彰, 竹政 伊知朗, 九冨 五郎, 里見 蕗乃, 和田 朝香, 鳥越 俊彦, 廣橋 良彦

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    本研究は、転移を来したリンパ節内のリンパ球が癌細胞を攻撃しない機序を解明することが目的である。まずはリンパ節転移巣の組織所見からリンパ球の分布と成熟の状態を調べてこれらのリンパ球の分化の把握を行い、癌微小環境におけるリンパ球の状態を位置情報の面も含めて明らかにする。そしてこれらの細胞がなぜそのような分布になっているのか、免疫チェックポイントや免疫疲弊が機序としてかかわるかどうかも解析する。最終的に臨床的経過とあわせてこれらの情報がどのような位置づけになるのか、どのように役立つのかを検討していく。

  • トリプルネガティブ乳癌におけるERO1-Lαをターゲットにした複合免疫療法の開発

    基盤研究(C)

    研究期間:

    2020年04月
    -
    2023年03月
     

    九冨 五郎, 島 宏彰, 和田 朝香, 鳥越 俊彦, 廣橋 良彦, 竹政 伊知朗

     研究概要を見る

    現在研究のStep 1を行い、Step 2に進んでいる。具体的には、① In vivoにおけるERO1-Lα阻害剤誘導体のproof of conceptの獲得として、NOD/SCIDマウスにTN乳癌細胞株(MDA-MB231)とERO1-Lαをノックダウンした細胞株をそれぞれ接種し、マウスをERO1-Lα阻害(ERODOXIN)投与群と非投与群に分け、腫瘍が120-130mm3になったところで、投与群にERO1-Lα阻害剤誘導体を投与し、1週間後にマウスをsacrificeして、投与群と非投与群におけるVEGF-AとPD-L1の発現の変化を、western blot法と免疫染色を用い蛋白レベルで検討して一定のデータは出ている。 そして次に、② 免疫不全マウスを用いた治療実験として、NOD/SCIDマウスにTN乳癌細胞株を接種し、腫瘍のサイズが120-140mm3になったところで、治療の前日に抗原特異的CTLクローンをivする。ここでは、我々が以前より実験を行っているSurvivinのCTLクローンを用いる。マウスをPlacebo群、抗VEGF抗体投与群、抗PD-L1抗体投与群、ERO1-Lα阻害剤(ERODXIN)投与群および3剤併用群の5群に分け治療実験を行う。薬剤投与(1週間)後に腫瘍を摘出して免疫染色を行い、HIF-1α、VEGF-A、PDL1、ERO-L1αの発現量を調べている。NOD/SCIDマウスにTN乳癌細胞株のERO1-Lαをノックダウンした細胞株を接種し、腫瘍増殖能、関連蛋白の発現量を同様に調べる。ERO1-Lα阻害剤に関してはERODOXINだけでなく、我々が以前使用していたEN460も同時に用いて研究を進めている。

  • 遺伝子変異由来スプライスペプチドの同定

    挑戦的研究(萌芽)

    研究期間:

    2018年06月
    -
    2021年03月
     

    鳥越 俊彦

     研究概要を見る

    HLA Ligandome解析法を改良し、de novoシークエンス法によって野生型タンパク由来スプライスペプチドの同定に成功した。健常人末梢血T細胞を刺激したところ、スプライスペプチド特異的CTLが誘導され、2種類のCTLクローンを樹立した。野生型タンパク由来スプライスペプチドは、高い免疫原性を有していることが証明された。 スプライスペプチドの産生機序を解析するために、minigeneを遺伝子導入してスプライスペプチドの産生を検証した。また、プロテアソーム阻害剤を用いてスプライスペプチドの産生を解析した。その結果、スプライスペプチドはプロテアソーム依存性に産生されているとの結論を得た。

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