共同研究・競争的資金等の研究課題 - 大﨑 雄樹
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イノシトール燐脂質分布の定量的解析
特定領域研究
研究期間:
2006年-2007年藤本 豊士, 藤田 秋一, 大崎 雄樹, 鈴木 倫毅
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ホスファチジルイノシトール(PI)のイノシトール基の3,4,5位が燐酸化されることによって生じるイノシトール燐脂質(PIs)は,細胞内小胞輸送やシグナル伝達に重要な役割を果たすことが知られている.PIsの膜内二次元分布をナノスケールで解析し,細胞内超微構造との関連を明らかにすることはPIsの生理的機能をさらに詳細に理解するために重要である.従来の方法では微細な脂質局在を解明することが原理的に困難であると考えられるため,我々は急速凍結した細胞膜を白金・カーボン薄膜で物理的に固定する凍結割断レプリカを用いてPIsの超微局在を可視化し,定量的に解析する方法を創出した.既に昨年度までの研究で特異性,標識効率性などが十分に確保された PI(4,5)P2に対するプローブ(GST-PH)を用いて,急速凍結して得た培養細胞のレプリカを標識,解析した.その結果,平坦な細胞膜のPI(4,5)P2は弱いクラスターを形成して存在すること,上記のクラスターはコレステロール抽出でやや低下するが,アクチン脱重合でほぼ完璧に消滅すること,PI(4,5)P2は特にカベオラ周囲に顕著に集中すること,細胞内カルシウム上昇によって標識は激減するが,生理的リガンドによる刺激ではカベオラ周囲のPI(4,5)P2が保たれる場合が多いことなどが明らかとなった.これらの結果は生細胞でのPI(4,5)P2の分布をナノスケールで初めて明らかにしたものであり,カベオラが平坦な細胞膜部分とは異なる特殊な領域を形成することを示した点で重要である.
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脂質滴蛋白質の生理的機能と細胞内脂質動態制御
基盤研究(B)
研究期間:
2005年-2006年藤本 豊士, 藤田 秋一, 大崎 雄樹
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従来,脂質滴は過剰な脂質をエステルとして貯蔵するための静的なコンパートメントであると考えられてきた.しかし我々の研究などにより,脂質滴が種々の細胞機能により積極的に関与するオルガネラであることが明らかになってきた.今回の研究により以下の成果を得た. 1)脂質滴の質量分析で同定したRab18は脂質滴に特異的に局在した.Rab18を過剰発現させるとADRPが脂質滴から脱落し,脂質滴と小胞体の密着構造の顕著な増加が認められた.同様の構造はADRPのノックダウン,BrefeldinA処理でも認められた.これらの結果より,Rab18はADRPの脂質滴局在を減少させることにより,脂質滴と小胞体の密着構造(LD-associated membrane)形成を誘導することが示唆された. 2)Huh7,HepG2など肝細胞由来株において,ApoBが脂質滴周囲に半月状の構造(ApoB-crescent)を形成することを見出した.ApoB-crescentはproteasomeまたはautophagyを阻害すると著明に増加した.脂質滴周囲にはproteasomeのサブユニットの集中が認められ,脂質滴画分に回収されるApoBはユビキチン化を受けていた.これらの結果は,ApoBがproteasome, autophagyで処理される際に脂質滴がプラットフォームとしての役割を果たすことを示した. 3)PAT蛋白質の一つであるTIP47は,細胞に脂肪酸などを負荷すると急速に脂質滴にリクルートされた.脂質滴への局在にはTIP47のN末が必須であり,また疎水性ポケットを形成すると予測されるC末部分を変異させると刺激なしでも脂質滴への局在が認められるようになった. これらの結果は脂質滴が細胞内の脂質ホメオスタシスに関する多彩な機能を担う可能性を明らかにした.
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定量的可視化法による癌細胞でのラフト破綻の解析
特定領域研究
研究期間:
2005年藤本 豊士, 藤田 秋一, 大崎 雄樹
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細胞膜にはスフィンゴ脂質,コレステロールなどで形成される脂質ラフトが存在すると仮定され,ラフトにはH-Ras, Srcなどシグナル伝達に係わる分子が集中すると考えられている.ラフトの破綻は細胞増殖制御の異常に直結すると予想される.しかしラフトは温度変化,プローブ結合などで容易に変動すると予想され,生きた細胞でのラフトの実体については多くの議論がある.我々は生きた細胞でのラフトの有無や諸性質を知り,シグナル伝達過程の異常との関係を検索するために急速凍結・凍結割断レプリカ標識法を用いた検索方法の開発と応用を目的として研究を進めている. 今年度はラフトを構成する分子であるGM1,GM3について実験を行い,分布をRipleyのK関数などで解析して以下の結果を得た.1)マウス線維芽細胞では半径約50nmのクラスターを形成する領域が大半を占め,一個の細胞は全域で同一の分布パターンを示した.2)クラスターはGM1の分布密度にかかわらず存在した.3)コレステロールを減少させた細胞あるいは4℃で処理した細胞では,クラスター分布の領域は減少し,大半の細胞でランダムな分布を示す領域との混在が見られた.4)GM3もクラスター分布を示すが,GM1,GM3は共通のクラスターを形成する場合と,別々のクラスターを形成する場合があった.これらの結果は,GM1がクラスターを形成し,コレステロール依存性に変化する点でラフト説を支持する.一方,コレステロール減少や低温による変化がクラスターの解消ではなく,ランダム分布との混在をもたらすことを初めて明らかにした.