共同研究・競争的資金等の研究課題 - 時野 隆至
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家族性小児ウィリス動脈輪閉塞症の原因遺伝子の探索
基盤研究(B)
研究期間:
2002年-2004年寶金 清博, 時野 隆至, 多田 光宏
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1、研究目的 本研究では、本疾患に特異的な遺伝子異常や遺伝子発現の異常を探索した。以下の3つの視点から研究を行った。 1)血液サンプリングによる家族発症もやもや病症例の遺伝子解析 2)家族性もやもや病における表現促進現象とtriplet repeatの伸張の検討 3)手術中に得られた患者の脳脊髄液のサイトカインの解析 2、対象および方法 1)家族性もやもや病関連遺伝子の探索(17q25の領域) 以下の3つの手法で探索を行った I)bioinformaticsの手法を用いた遺伝子探索 II)既知遺伝子に対する変異解析 III)SNPs解析 2)家族性もやもや病における表現促進現象とtriplet repeatの伸張の検討 もやもや病と141例を対象として17q25の領域のtriplet repeat伸張の有無を検討した。 3)手術中に得られた患者の脳脊髄液のサイトカインの解析 手術中に得られる脳表面の脳脊髄液のサイトカインの測定を行った。測定はELISA法で行った。 3、結果 1)遺伝子探索 約250のUnigene Clusterをアミノ酸に翻訳して、ドメイン検索や他の機能タンパクとの相同性解析を行ったが、既知遺伝子の他には、明らかに原因遺伝子として適当なUnigene Clusterを検出することはできなかった。既知遺伝子に対する変異解析これまでに、DNAI2、AANAT、PSR、HCNGP、HN1、SGSH、SYNGR2、EVPL、TIMP2などの変異解析を行っているが、本症に特異的な遺伝子変異は認められていない。TIMP2の8つのSNPについては、患者特異的なSNPは認められなかった。 2)家族性もやもや病における表現促進現象とtriplet repeatの検討 家族性もやもや病において,表現促進現象の存在が示唆された。もやもや病を発症者において繰り返し数が10である伸長を認めたが,今回検討した17q25の領域では、家族性もやもや病家系における発症症例と非発症症例では,有意差は認められなかった。 3)髄液中サイトカイン測定 もやもや病患者においては、b-FGF、HGFの高値が測定された。
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転写制御因子p63の発生,分化における役割
特定領域研究
研究期間:
2002年-2003年佐々木 泰史, 時野 隆至
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1.正常の発生段階あるいは細胞分化においてp53ファミリーメンバーの機能を媒介し直接実行する標的遺伝子を決定するために,p53ファミリーをいくつかのヒト癌細胞株に導入し、cDNA microarrayによる発現解析を行った.その結果,p73の特異的標的遺伝子としてIL-4Rα遺伝子を同定した.さらにIL-4Rαゲノムにp73タンパクと細胞内で特異的に結合する部位を同定し,p73がこの配列に結合することによりコファクターがリクルートされ,ヒストンのアセチル化が促進されることを明らかにした.またp73が活性化した細胞をIL-4で刺激すると,STAT6の活性化とアポトーシスが誘導され,この効果はIL-4Rの中和抗体により抑制された.この結果はp73がIL-4シグナルを介して細胞の分化,炎症,アレルギーに関わっていることを示唆している. 2.p53ファミリー共通の標的遺伝子としてosteopontin(OPN)を同定した.OPNは主に活性化T細胞から分泌されるサイトカインで,骨組織の形成に不可欠だけでなく,B細胞の分化増殖や抗体産生能に重要な役割を果たしていることが示された.この結果はp53ファミリーの機能に関する新しい知見と考えられる. 3.p53ファミリーにおいて最も最も高親和性で結合するDNA配列には違いがあり,スペイサーが介在するp53結合モチーフ配列RRRCWWGYYYの3コピー以上で構成される配列が,p63あるいはp73の高親和性応答配列として働くことが示唆された.従ってp53ファミリーは結合配列に対する親和性の違いにより標的遺伝子の使い分けをしており,生体においては単純に機能が重複している遺伝子ファミリーではないことを明らかにした.
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p53とその標的遺伝子群の機能解析
特定領域研究
研究期間:
2000年-2004年時野 隆至
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1.新規p53標的遺伝子 本研究ではp53の生理機能の全貌を解明する目的で、RDA法によりp53欠損マウス胎仔線維芽細胞p53(-/-)MEFと正常MEFで発現量の異なる21種類の遺伝子を同定し、そのうちOPNおよびSCN3Bがp53の直接の標的遺伝子であることを報告した。また比較ゲノム解析を利用して機能的p53応答性配列をゲノムから包括的に抽出し、ヒトゲノムからp53標的の候補遺伝子として60遺伝子を同定し、さらにその約半数がp53応答性のエンハンサー配列として機能することを明らかにした。この方法により同定した新規p53標的遺伝子VDR(vitamin D receptor)について詳細な解析を行った。 2.生体におけるp53ファミリーの役割 p53ファミリーの生理機能の全貌を解明する目的で、cDNAマイクロアレイ解析を利用したp53ファミリーの各メンバー特異的な標的遺伝子の解析を行った。p73あるいはp63によって特異的に発現が誘導される標的遺伝子としてPEDFを同定した。p63はNotch受容体リガンドをコードするJAG1遺伝子を特異的に発現誘導し、p73はIL-4Rα遺伝子を特異的に発現誘導することを見出し、それぞれ直接の標的遺伝子であることを明らかにした。 3.p53ファミリー一遺伝子の機能解析と癌治療への応用 ヒト悪性腫瘍由来細胞株にアデノウイルスベクターを用いてp53とそのファミリー遺伝子を導入し、アポトーシス誘導能を比較検討した。興味深いことに正常型p53をもつ細胞株においてはp73βやp63γがp53よりも強力にアポトーシスを誘導する傾向が得られた。さらにマウスin vivo皮下移植モデルにおいては、p53あるいはp63γの単独導入ではアポトーシスに抵抗性であった細胞株でAd-p53とAd-p63γの同時投与により相乗的な腫瘍縮小効果が認められた。
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婦人科癌におけるDNA修復遺伝子,βカテニン,SKT11などの遺伝子異常解析
基盤研究(C)
研究期間:
1999年-2001年寒河江 悟, 工藤 隆一, 時野 隆至, 石岡 伸一
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本研究では子宮内膜癌や卵巣癌での遺伝子異常の解明を行い、子宮内膜癌で23%、卵巣癌で3%のRER異常を認めた。とくに卵巣癌では類内膜型におけるRERの検討を行い、組織型として共通の遺伝子異常の存在が推察された。また子宮内膜癌においてRER陽性例は予後不良傾向があった。またRER陽性例にMMR遺伝子(hMLH1,hMSH2)の変異は1例のみであった。 さらに、卵巣癌61例、子宮内膜癌35例についてβ-catenin遺伝子の変異およびその蛋白の発現を検討し、それぞれ5例(8%)、5例(14%)にβ-catenin遺伝子の変異を確認した。骨盤リンパ節への微小転移の検出にもβ-catenin遺伝子の変異の存在が有用であった。 またPeutz-Jegher Syndromの原因遺伝子としてSerine/Threonine Kinaseの働きをしているSTK11がごく最近報告され、30例の卵巣癌においてSTK11の変異をSSCP-Sequence分析で検討した。exon6のCCG-CTG(Pro281-Leu)の変化が1例認め、さらにSSCPにてexon5に2例のextra bandを認めた。 卵巣癌の新規抗癌剤としてTaxolあるいはTaxotereが使用され、その化学療法の有効性を治療前にそれぞれの薬剤ごとの予知が可能かをp53,BAX, Bcl-2などの遺伝子発現を検討することで、薬剤耐性の機序解明を試みた。その結果、卵巣癌株におけるTaxol誘発apoptosisの発現にはp53とは独立した経路とストレス反応に誘発された経路が重要な役目を担い、これらの抑制とbag-1やhsp70の過剰発現がTaxolの獲得耐性に重要であることが判明した。
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ヨーロッパなどががん研究先進国との研究交流
特定領域研究(A)
研究期間:
1999年黒木 登志夫, 石川 冬木, 樋野 興夫, 菊池 章, 開 祐司, 宮園 浩平, 佐谷 秀行, 貝淵 弘三, 山本 雅, 時野 隆至, 秋山 徹, 高橋 雅英, 田中 信之, 武藤 誠, 堀井 明
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1.研究背景: がん遺伝子の発見をきっかけに、がん研究は遺伝子の時代に入り、欧米のがん研究先進国を中心に激しい研究競争を繰り広げている。地理的に隔離されているわが国の研究者は、研究者との直接の討論、情報、資料交換に自ら制限があり、ともすると孤立しかねない。この問題点を克服するため、わが国の第一線の研究者を積極的にがん研究先進国に送る必要がある。本研究は、ヨーロッパのがん研究先進諸国との研究交流を目的に組織された。特に、日独、日仏がんワークショップはそれぞれ一年毎にヨーロッパ本国と日本と場所をかえて行われているが、本年度は日独をヨーロッパで、日仏を日本で開催した。本年度は10名をヨーロッパ諸国に派遣した。 2.日独がん研究連絡会議: 1999年7月29〜31日独国・エッセン、エッセン大学において「分子細胞生物学的がん研究」に関する日独がんワークショップを開催した。わが国から黒木登志夫(昭和大・腫瘍分子研)、秋山 徹(東大・分生研)、菊池 章(広島大・医)、樋野興夫(癌研)、石川冬木(東工大・生命理工学)が本研究費で出席した。 3.日仏がん研究連絡会議: 1999年9月8〜10日、東北大学・医学部において、「21世紀のがん研究に向けての新しい戦略」をテーマに日仏ワークショップが開催された。フランス側から12名、わが国からは黒木登志夫(昭和大・腫瘍分子研)、石川冬木(東工大・生命理工学)、宮園浩平(癌研)、広橋説御、塚田俊彦、落合孝広(国立がんセ・研)、渋谷正史、中村祐輔(東大・医科研)、中山敬一(九大・生医研)、月田承一郎、武田俊一(京大・医)、伊藤嘉明(京大・ウイルス研)、菅野晴夫(癌研)、豊島久真男(住友病院)が本研究費で出席した。 4.その他の派遣者: 宮園浩平(癌研)、藤井穂高(東大・医)、丸義朗(東大・医科研)、開祐司(京大・再生医研)、千葉英樹(札幌医大・医)をヨーロッパの先進研究室に派遣した。
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p53標的遺伝子の機能解析
特定領域研究(A)
研究期間:
1999年時野 隆至
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1.ヒトゲノムからp53結合配列のスクリーニングを試み,p53標的遺伝子の単離とその機能解析を行った. (1)その中で7回膜貫通蛋白をコードするBAll遺伝子をグリオブラストーマ細胞に導入しin vivoで観察をした結果,BAllを導入した癌細胞株では血管新生が著明に抑制されたことを確認した.さらに酵母two-hybrid系を用いて,BAll遺伝子産物と相互作用する蛋白をコードする3つの新規遺伝子を同定した. (2)GMLの発現と種々の悪性腫瘍由来細胞株においてDNA障害性薬剤を中心とした抗癌剤に対する感受性に相関が認められた.GMLの機能解析を行うため,GML発現が癌細胞へ与える影響を検討した.3種類のヒト癌細胞にGML遺伝子を高レベルに発現させた場合,細胞増殖には影響を与えないが,抗癌剤あるいは放射線に対する感受性の増加が認められた.グリオブラストーマ細胞T98GにGMLを強発現させると,アポトーシスによる細胞死を誘導することが確認された. 2.p53ファミリー遺伝子p73,p51とp53の転写活性化能,細胞増殖抑制能,アポトーシス誘導能について比較し,以下の点を明らかにした. (1)p53に比べると弱いが,p73βおよびp51Aは内在性p21蛋白誘導能を示した.この結果はp53応答性配列を介した転写活性能の結果と一致した. (2)p73,p51を発現する組み換えアデノウイルスを作製した.DNA断片化を指標にアポトーシス誘導能を検討した結果,複数のヒト癌細胞株において,Ad-p73βおよびAd-p51AはAd-p53に比べて強いアポトーシス誘導能を示した. (3)細胞増殖抑制能とp21発現誘導能の結果から,細胞死を誘導するためのp73およびp51の標的遺伝子はp53標的遺伝子とは異なる可能性が示唆された.
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罹患同胞対法を用いた胃がん関連遺伝子の解明
特定領域研究(A)
研究期間:
1999年笹月 健彦, 松野 正紀, 横田 淳, 伊東 文生, 磨伊 正義, 三輪 晃一, 時野 隆至
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胃がんの発症に寄与するがん関連遺伝子の単離を目的として、胃がん罹患同胞対検体収集、若年発症弧発胃がん症例検体の収集を継続し、罹患同胞対法による全ゲノムスキャニングを行った。 1.17施設の臨床グループにより、胃がん同胞発症対から、インフォームド・コンセントに基づいて採血を行い、DNAの抽出・保存を行った。これまでに70組の同胞対検体が収集された。 2.上記の胃がん同胞発症対57組に対して、4施設の解析グループにより400個のマイクロサテライトマーカーを用いたDNA多型解析を行った。MAPMAKER/SIBのプログラムを用いた連鎖解析を、全染色体について終了した。第1、8、9、11、21染色体において1.0以上のLOD値を示す領域を見出した。 3.健常対対照群326人のDNAを利用して、日本人集団における各マーカーのアリル同定の作業を4施設の解析グループにより完了した。 4.若年胃がん発症例(弧発例)の末梢血の採取を開始し、これまでに100人(発症時平均年齢41.6歳)のDNAが抽出・保存された。 これまでの57組を対象とした解析において、1以上のLOD値を示す上記染色体が同定されたことは注目に値する。解析数を増やすこと、若年発症弧発例を用いて解析すること等により胃がん発症との関連を確認する。
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脳特異的血管新生抑制因子BAI1遺伝子導入によるグリオーマの血管新生抑制療法の開発
基盤研究(B)
研究期間:
1998年-1999年有田 憲生, 中野 敦久, 松本 強, 蒲 恵蔵, 時野 隆至, 泉本 修一, 平賀 章壽, 大西 丘倫
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1.脳腫瘍臨床標本を用いた研究 グリオーマ臨床標本を用いて、(1)BAI1遺伝子発現量、(2)p53遺伝子変異、(3)BAI1遺伝子発現とp53遺伝子変異との相関、(4)BAI1遺伝子発現と腫瘍血管密度との相関、を検討した。その結果、(1)半定量的RT-PCR法で正常脳と発現量と比較すると、グリオーマの約70%でBAI1発現量が低下していた。発現量の低下は、悪性度が高いほど高頻度で見られた。(2)PCR-SSCP法でp53変異を検索した。その結果グリオーマの約30%で、p53タンパクのDNA結合能に影響すると考えられる変異を認めた。(3)BAI1遺伝子発現量低下とp53遺伝子変異の間には、有意の相関は認めなかった。 (4)グリオーマ組織を抗CD34抗体で免疫染色し、腫瘍内の血管を定量評価した。BAI1遺伝子発現正常例と比較すると、BAI1発現低下例で腫瘍血管数は増加していた。以上の結果より、悪性グリオーマの少なくとも一部では、p53遺伝子変異によるp53タンパクの転写活性能の喪失以外の機序によるBAI1発現低下が生じていると考えられる。BAI1発現低下腫瘍では、BAI1遺伝子導入によるBAI1タンパクの強制発現が、血管新生を抑制すると思われる。 2.グリオーマ培養細胞株におけるBAI1遺伝子の機能解析 BAI1遺伝子の強制発現と血管新生抑制、腫瘍増殖能、分化などとの関係をみる目的で、テトラサイクリン存在下で導入遺伝子を発現させることのできるTet-On system(Clonetech)を用いて、BAI1遺伝子導入グリオーマ細胞株を作成中である。T98G、U87MG細胞を用い、現在株の樹立の最終段階を進めている。株の確立次第、マウス移植モデルを用いて、血管新生抑制などの解析を予定している。
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カルニチン輸送担体遺伝子のポジショナルクローニングとその病態生理への関与
基盤研究(B)
研究期間:
1996年-1997年桑島 正道, 時野 隆至, 村上 尚, 野間 喜彦
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カルニチンのin vivoにおける役割は明確でなく、不明な点が多かった。しかしこのような否定的な認識は、私共の見いだした全身性カルニチン欠乏マウス(JVSマウス)の出現により一変した。このJVSマウスは、脂肪肝、高アンモニア血症、低血糖症、心肥大、骨格筋変性などの症状を合併しており、我々は全身組織の組織学的、生化学的、分子生物学的分析をすすめながら、上記の多彩な症状とカルニチン欠乏との関係を分析している。 本研究において明確になった点は次のことである。 1)JVSマウスにおいては、生後2週齢より早くも心重量、心体重比ともに対照に比し大きくなっていた。心筋細胞の肥大がみられ、また核が大きくなる傾向があった。電顕像では核はやや肥大しミトコンドリア増加の著明な細胞も少なくなかった。また、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(CPT)I、CPIIのmRNAの発見に異常がみられた。 2)JVSマウスの線維芽細胞において、高親和性のカルニチン輸送活性が消失していることを見いだし、JVSマウスが、ヒトにおける原発性カルニチン欠乏症のanimal modelであることを明らかにした。 3)JVSマウスの症状は常染色体劣性の遺伝形式で伝わり、疾患遺伝子(JVS遺伝子)は単一であると考えられている。連鎖解析の結果、JVS遺伝子はマウス第11番染色体上に存在することを見いだした。
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癌抑制遺伝子の単離とそのヒト癌における遺伝子異常の解明
重点領域研究
研究期間:
1995年時野 隆至, 中村 祐輔, 江見 充, 藤原 義之
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32人の食道癌患者の種々の段階の106病変(異形成・早期癌・進行癌)における遺伝子異常を、マイクロサテライトマーカーを利用した染色体欠失を指標として解析し、3p,17pの癌抑制遺伝子の不活性化が異形成の段階ですでに起こっていることや9p,9qの癌抑制遺伝子の不活性化は癌化の段階で重要な役割をしていることなど、食道癌においても多段階的に遺伝子異常が蓄積されていることを明らかにした。また、種々の臓器の扁平上皮癌の発生に共通して関与していると考えられる第9染色体長腕の遺伝子については、数百kbの範囲まで癌抑制遺伝子の存在部位を限局化することができた。遺伝性癌の原因遺伝子のひとつであるMLH1遺伝子の変異を効率よく検索し発症前診断に応用するために、この遺伝子の全エキソンを1枚のゲルで解析するスクリーニング法を確立した。この方法によって全エキソンの変異の有無の検索を24時間以内に行うことが可能となった。さらに、リンパ節転移の有無を原発巣において認められる遺伝子異常を指標として遺伝子レベルで診断することの臨床的意義を調べるため、120例の病理組織学的にリンパ節転移陰性と診断された大腸癌患者についてレトロスペクティブに検討を行った。その結果、遺伝子診断はより正確な予後判定指標であり、術後の化学療法の適否を判断するための有用な指標になりうることが示唆された。また、抗p53抗体による免疫組織学的な検討の結果と遺伝子診断の結果との対比から、MASA法による解析によって生きた癌細胞のみならず、免疫細胞に呑食された癌細胞をも検出可能であることが示唆された。次に、p53蛋白の結合すると考えられるDNA断片を有するコスミドクローンを単離し、それらをもとに正常p53蛋白によって発現が誘導される2種類の新規の遺伝子の単離に成功した。
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がんの遺伝子診断
重点領域研究
研究期間:
1994年-1996年珠玖 洋, 安井 弥, 高橋 隆, 森下 和廣, 時野 隆至, 金子 安比古, 谷口 直之
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1.胃癌組織40例において、CDC25Aは45%、CDC25Bは70%(28症例)において発現増強が認められ、CDC25Cは全てで低発現だった。CDC25Bは低分化腺癌症例、ステージの進んだ症例に発現増強が認められた。又、分子病理診断の一つとしてCAr ep eatを2ローカス、polyAを2ローカス検討し、約5%の症例でreplication errorを同定した。分子病理診断は9000例にいたった。 2.208症例の非小細胞癌症例でcyclinD1およびRb遺伝子の検討を行ったところ、cyclinD1遺伝子発現の消失がみられた腺癌症例は、有意に短い術後生存期間を示した。多変量解析でもcyclinD1はp53、病期と共に独立した有意な予後因子だった。 3.神経芽腫106例を対象として、1p36のD1Z1と1q12のD1Z1プローブを用いてFISH法で検討した。D1Z1の数(n数)、およびD1Z1数に比してのD1Z2数(D1Z1>D1Z2;b;D1Z1=D1Z2;a)更に、RFLPマーカーによる1pのLCH、及びN-myc増幅を合わせて検討した。その結果、2nb、4nb腫瘍は予後不良、3n、5n腫瘍は予後良好、2na、4na腫瘍はその中間であった。 4.急性骨髄性白血病における第三染色体の異常をEVI1遺伝子を中心として解析した。t(3;7)転座を有する症例、t(1;3)転座を有する症例の切断点および遺伝子を同定した。又40症例の白血病においてガングリオシドGM3からのGD3の合成酵素、α2,8シアル酸糖転移酵素の発現を検討したところ、T-ALLで中等度の、ATLで高い遺伝子発現が認められた。 5.p53の下流標的遺伝子の検索を進め、8種類の正常型p53により発現制御される遺伝子を同定した。そのひとつはGPl anchor ed mol eculeに属する新しい遺伝子であり、その発現は食道癌細胞株の抗癌剤感受性と強い相関性を示した。 6.AFPやγ-GTPの糖鎖に癌性変化を起こすα1,6 fucosyltr ansfer aseの精製を行いそのcDNAを単離した。
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癌抑制遺伝子解析のためのヒト第3染色体遺伝的地図の作成および遺伝子の同定
一般研究(A)
研究期間:
1990年-1991年中村 祐輔, 土屋 永寿, 北川 知行, 時野 隆至, 佐藤 孝明
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癌における癌抑制遺伝子の異常は一般的に一方の染色体側の欠失と他方の染色体側の小さな変異(点変異や小さいDNA断片の挿入・欠失)として認められる。したがって、対象とする腫瘍組織において欠失している染色体部位を詳細に検討することにより、その腫瘍の発生に関与する癌抑制遺伝子の存在する位置を同定することが可能である。われわれは肺の非小細胞癌の発生に関わる癌抑制遺伝子を単離することを目的として49例の腺癌・18例の扁平上皮癌におけるヒト第3染色体短腕領域の欠失について、19のRFLPマ-カ-を利用して調べた。この結果、49例の腺癌のうち33例(67%)がこの染色体の欠失を起こしていたことが明かとなった。また、比較的多くの症例がこの染色体の一部分だけを欠失していることがわかった。さらに複数の腫瘍に共通して欠失している領域は3p21.3と3p14.1ー21.1の2領域であることが同定され、第3染色体上には肺の腺癌の発生に関与する癌抑制遺伝子は少なくとも2個存在すると推測される。さらに、染色体欠失の頻度とステ-ジを比較したところ、ステ-ジ1・2では30例中17例が欠失していた(57%)のに対し、ステ-ジ3では19例中16例(84%)の高頻度の欠失を認めた。また、病理学的分化度との対比では高分分子化癌では22例中12例(55%)の欠失頻度であったのに対し、未分化癌では7例中7例とも欠失していた。このことから、第3染色体上の癌抑制遺伝子の異常は肺腺癌の増悪因子としてとらえられるのではと考察される。また、扁平上皮癌では18例すべてにおいて、第3染色体短腕の欠失を認め、欠失領域も腺癌と比べて大きな領域であった。したがって、どの染色体の部位に問題となる遺伝子が存在するかを特定することはできなかった。今後は、さらに用いるRFLPマ-カ-の数を増やして、多数のサンプルを調べ、遺伝子の単離を目指したい。
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DNA増幅法(PCR法)による高多型VNTRマ-カ-の単離
一般研究(C)
研究期間:
1990年-1991年時野 隆至
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最近、多用されているミクロサテライトDNAの多型を効率よく同定する方法をテストした。ヒトゲノムコスミドライブラリ-に対してオリゴヌクレオチドCACACACACACACACACACAを用いてスクリ-ニングしたところ、約40%のクロ-ンが陽性であった。ミクロサテライト多型はくり返し配列の両側の配列を決定し、この配列からプライマ-を設計してPCR法(Polymerase Chain Reaction法)によりヒトゲノムDNAを増幅し、アクリルアミドゲル電気泳動によって長さに従ってDNAを分離することによって同定される。この際、最も労費を要するのはくり返し配列両側のDNAの配列を決定することである。そこでこのステップを簡便化するためにCAを10回くり返したオリゴヌクレオチドの3'側にA,GあるいはTを加えたもの、CC、CT、もしくはCGを加えたものの6種類のプライマ-をミックスしたものを直接コスミドのDNA配列を決定するプライマ-として用いた。この結果、約30%のクロ-ンがこれで直接配列を決定することが可能であった。3種類ずつにしたものでは約70%のクロ-ンがシ-クエンス可能であった。今後、この方法を利用してCAのくり返しによる多型を同定していくことが可能であると考える。
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乳癌・大腸癌における癌抑制遺伝子の単離
がん特別研究
研究期間:
1990年中村 祐輔, 三木 義男, 西庄 勇, 時野 隆至, 佐藤 孝明
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乳癌に関しては200例の乳癌患者の正常および癌組織よりDNAを抽出し、RFLPマ-カ-による染色体の欠失を調べた。全染色体にわたる40個のRFLPマ-カ-によって検索した結果、第3染色体(45%)、第13染色体長腕(28%)、第16染色体長腕(46%)、第17染色体短腕(57%)、第17染色体長腕(38%)に高頻度の欠失を認めたことから、これらの部位に癌抑制遺伝子の存在することが示唆された。また、erbB2遺伝子領域の増幅と第17染色体短腕の欠失との間強い相関(p<0.001)が認められたことから染色体の異常は独立しておこるのではなく、ひとつの異常が他の異常を起こし易くする可能性が考えられた。また、第13染色体の欠失も第17染色体の欠失が影響している可能性が示されるとともに、この染色体上の癌抑制遺伝子の欠失が、癌の増悪に関係することが病理学的な診断との比較により示唆された。また、それぞれの染色体における共通欠失領域の同定も行い、第3・16・17染色体については5〜10cMの領域に癌抑制遺伝子の存在部位を限定している。大腸癌については、第5染色体の家族性大腸腺腫症の原因遺伝子の検索を中心に研究を行った。一人の患者からの複数個の腺腫と癌における染色体欠失を調べたところすべての腫瘍が同一領域を欠失していたことから染色体欠失はランダムに起きるのではなく特別なメカニズムによって起こっていることが示唆された。さらに、家族性大腸腺腫症患者において同定した200kbの欠失領域近傍より単離した3種類のcDNAのひとつが大腸癌において欠損あるいはアミノ酸置換をおこす点変異を起こしていることが明かとなった。この遺伝子はG蛋白活性化ドメインと考えられる領域を有し、大腸癌の発生に関与する癌抑制遺伝子であり、MCC(Mutated in colorectal carcinoma)遺伝子と名付けた。